社長失格

社長失格の詳細

私自身も事業をしており、また他社の倒産に関わることがよくあります。当事者の目線でかつ適度な客観性を持ちながら書かれているという点で、本書は非常に優れていると思います。ハイパーシステムの新規性、アイデアとしての面白さという特異性はもちろんあるのですが、筆者自身が「時代の狂言回し」というように、実はこの時代には山ほどこういう話がありました。社歴の浅い会社に銀行が無担保で多額の融資をし、一斉に新規融資を止めて破綻する。端的に言えば自転車操業そのもので、ペダルになっていた銀行が外れたらおしまいということです。なぜ銀行が一斉に貸し、メインバンクが融資をやめたら一斉に引き揚げたのか。著者は「銀行」を意識しすぎて、「銀行員」に対する観察が足りなかったように思います。銀行の収益源は利子ですから、銀行員は金を貸さなければ成績になりません。銀行としては貸した金が返ってこないのは困りますが、銀行員の多くは「自分の異動後なら知ったことではない」と思っています。銀行員の異動は頻繁ですから、自転車操業でも２，３年潰れなければ逃げきりです。そのせいか、ちょっと考えれば簡単に粉飾と分かる決算書でも平気で無担保融資をすることがあります。本件で住友がひいた後に他行の銀行員が必死に返済を求めたのは、２，３年は動くと思っていた自転車が１年足らずで、自分の異動前に倒れそうだと考えたからかもしれません。父親の保証を求めたのも、回収のためではなく、会社に対して「やれることはすべてやった」というエクスキューズをするためでしょう。ハイパーシステムのようなアイデア勝負のビジネスは、短期間でシェアを獲得しないとより資本のある他社に真似されて終わりですから、銀行融資に頼ることも、大風呂敷を広げることもやむを得ない面があります。しかし、それは収益が軌道に乗るのと銀行が損切りモードに変わるのとどちらが先かの博打とも言えます。こうして積み重なった不良債権により苦境に陥った銀行が公的資金で救済がされることをどう考えるか。いわばこれも自転車操業です。銀行の在り方そのものを変えない限り、本書に似たストーリーは今後も生まれ続けるだろうと思います。